戦車不要論

私がよく行く軍事系の掲示板に、最近戦車不要論者が書き込みをしていて、始めは釣りかと思ったんだけど、これがナンと本気も本気らしい事が分かり、他の常連も始めは冗談半分だったのが、真剣な議論に発展していた。

たま〜〜〜〜〜〜に出てくる戦車不要論なんだけど、未だに居るんだな〜と真剣に驚きましたよ。軍事問題に関心のない人達には「なんのこっちゃ?」って話だと思うけど、用は文字通り「戦車は既に時代遅れで必要が無い」という意見。
たま〜に思い出したように出てくる、流行病のような存在(笑

曰く

  • 冷戦構造崩壊後、核の脅威はそのままに2大構造だけが消え去り、もはや大規模世界大戦が起こる可能性は低い。従って大規模戦車戦が起こる可能性も低い物になっている。
  • 航空機の目覚ましい進歩(戦闘爆撃機、対戦車ヘリなど)により、その搭載兵器も高性能を極め、地上をノロノロ走る戦車などは、戦争の初期段階で壊滅してしまう。
  • 歩兵が装備する対戦車火器の性能も向上しており、もはや無敵の戦車など製造不可能。従って、単価が高い戦車を取得するより、遙かに安い対戦車火器を大量に取得する方が効率的。
  • 開けた場所ならともかく、森林、山岳、市街戦では戦車は役に立たない。
  • 昨今ゲリラ戦が多くなってきている事を考えても、戦車は存在意義が無くなりつつある。
  • どうせ無敵じゃないなら、装輪装甲車の方が、取得価格、整備性、燃費などを考えても戦車は買う必要がない。

まあ、他にもあるのかもしれませんが、大体こんな感じですね。

結論から書くと、見事なまでの机上の空論としか言いようがない話です。
一見?すると、そこそこ説得力があるようにも思うかもしれませんが、見事なまでに穴だらけなんですよね。
大規模戦車戦については、確かに可能性が低くなっているのは事実ですが、そもそも戦車は大規模戦車戦だけの為に存在する物じゃないんですよ。それに大規模という言葉を何処まで当てはめるかは、場合によるのでしょうが、先の湾岸戦争イラク戦争でも相当数の戦車同士が撃ち合うような戦闘は発生しています。

航空機の進歩という話に関しても、先の湾岸、イラク戦争でも確かに相当数の車両が空爆で破壊されましたが、上記のように多くの戦車は偽装、隠蔽で生き残り戦っています。
あのような砂漠地帯の偽装が難しい所ですら、そうなのですから、森林や山間部が多い土地で戦争が起これば、一層多くの戦車が生き残れるでしょう。
それに、歩兵や軽装甲車が搭載する、対戦車火器の向上と同じように、地対空ミサイルなど対空火器の性能も向上している事を完全に失念しています。地上兵器を完全にワンサイドゲームで片付けるのは、非常に困難に成りつつあるのも事実です。

歩兵の携帯する対戦車火器についてですが、確かに大きな驚異です。
しかし、少しでも軍事問題に詳しい方なら分かると思うけど、戦車が戦場において無敵を誇れた期間は、実は非常に短い時間でしかないんだよね。具体的に言うと、戦車が初めて戦場に登場してから僅か数週間だけです。
それ以後、常に対戦車兵器と、戦車はシーソーゲームを繰り返してきています。所詮無敵の兵器など存在しえないのですよ。

WWⅡのタイガー戦車などは、その無敵ぶりで有名ですよね?
事実、熟練したクルーが乗ったタイガー戦車は、信じられない数の銃弾、砲弾、地雷の被害からも生還しています。しかし、運や油断から、たった一発の砲弾でタイガー戦車ですら撃破されてしまっているのも、また事実なのですよ。
では、やはり戦車の存在意義は?と言う話になりそうですが、慌てずに(笑

戦車は多くの陸上兵器の一種類でしかなく、それ単体では完全な効力を発揮出来る物では、最初から無いのだと理解するといいのですよ。つまりどんな高性能な戦車でも、敵が待ちかまえる場所に、何の支援もなく頭から突っ込んでいけば、その末路は悲惨な物になる可能性が高いという事です。
適切な航空・後方支援火力、歩兵等の支援が有ってこそ戦車はその火力を発揮出来るという事で、逆を考えれば、その他の兵器も戦車があるからこそ、その性能を発揮出来るのですよ。

戦車の射程外から、戦車の数を遙かに上回る対戦車火器で攻撃を掛ければ、確かに歩兵に軍配が上がる事もあるでしょう。しかし、数が少しでも少なかったら?
戦車部隊が一時的に退却した後、後方支援で砲撃を加え、その混乱の中、再び戦車が進撃してきたら?数台の戦車が破壊出来ても、残りの戦車から硫弾砲で反撃を受ければ?
歩兵の被害は、間違いなく甚大な物になります。
机上の空論としては、「歩兵数十人と対戦車兵器」対「3〜4名が乗った高価な戦車」ですから、費用対効果で考えても経済的と判断するかもしれません。事実WWⅡの後半、物量で押してくるソ連戦車に対してドイツ軍は「パンツァーファースト」という使い捨てバズーカーを大量に生産し、対抗しようとしました。しかし、実際に戦う歩兵はどう思うでしょうか?
確かに上手く当たれば一撃で敵戦車を破壊出来る対戦車兵器を支給されていると言っても、自分達は、いったん敵に捕捉されたら、その生身で逃げまどうしか有りません。
しかも最初は、調子よくヒット&ラン戦法で上手く行っていたとしても、敵もムザムザ殺されに来る訳じゃないのですから、当然これまで以上に警戒してくるでしょう、少しでも怪しい所には、片っ端から硫弾や、機銃弾を打ち込んでくる可能性だってあります。
これらの兵器で殺された兵士の死体は、言葉で説明するのが難しいぐらい惨たらしい物で、生き残った兵士の志気を下げるには十分すぎます。プロパガンダや、過酷な手段で兵士の志気を高める事も出来ますが、やはり限界という物はあります。

そんな所に、味方の戦車が来てくれたら、どれほど志気が回復するか?どれだけ想像力が貧困でも分る話だと思いますけどね。。

上記の話が良く分る例としては、イラク戦争時、生き残ったイラク軍戦車は果敢にアメリカ軍戦車に抵抗しましたが、その性能差から一方的なワンサイドゲームになりました。なんせイラク軍戦車の砲弾で破壊されたアメリカ軍戦車は一台たりとも無かったのですから、本当にワンサイドゲームです。
所が、テロリストとの市街戦が始まると、アメリカ軍の戦車は、何台も破壊されています。
それも携帯型対戦車火器であるRPG系列の物で。
これは支援火器が使えない、ゲリラ戦だからこそ起こった被害だと言えます。しかしイラク戦争後のアメリカ軍兵士の死傷者データーを見ると、作戦行動に戦車を加えた部隊の死傷者が、極端に低い事も分ってきています。
これは、敵が攻撃してくる時に、先ずは一番驚異の高い戦車に攻撃を集中させるからなのと、根本的に敵が戦車の存在に脅威を感じ、攻撃を躊躇しているからに他ありません。この例を見るだけでも、戦車の重要性というものが分ってきませんか?

戦車は機動兵器ですから、自由に身動きが取れない場所では、その能力を出し切れません。ですから森林、山岳、市街戦、ゲリラ戦に向いているとは私も言いません。
しかし、そうした場所でもやはり戦車が活躍出来る側面は存在して、過去の実戦でも多くの功績を残しています。これは間違いのない事実です。

強力な主砲と、適切な防御力、様々な地形を走破出来るクロスカントリー能力に、それを支えるエンジンは、やはり敵対する者にこれ以上は無い脅威を与える存在である事には間違いないという事なんだよね。
このような化け物に、一度でも死ぬ思いをさせられた人間は逆に、絶対に戦車が不要などとは言わないでしょう。

兵器は高価な物です。
戦車も当然高価な物です。そしてそれを買うのは税金です。ですから、どんな国の議会でも、兵器の所得には多くの議論が交わされます。その結果、無駄な兵器は、買わないようにします。
まあ、当たり前の話ですやね。

まあ、それでもたま〜〜〜に、とんでも兵器を開発してしまう事もありますが、そんな物は一度でも実戦が始まれば瞬殺されます。
そんな中で殆どの国の軍隊が戦車を保有し、これからも開発し続ける事を認め、何度実戦を潜り抜けても消え去らないと言う事実を考えれば、戦車が必要な物か?そうでない物か?自ずと分る話だと思いますけどね・・・・・。


まあ、それでも不要論を捨てられない人もいるのでしょうが、現場の人間が「絶対に必要」と言っている道具なのですから、それを与えるのは国民の義務だと思いますよ〜(笑